【後編】書道・美術家 松井由香子の活動

毎月第二の土曜日に「アトリエ書道」という書道教室を主催されている、書家・美術家の松井由香子さん。
ハコでのお教室は今年で11年目を迎えます。

4月からは、毎月第三金曜日の午後、大人クラスと子どもクラスを新たに開講されることなりました。この機会に、書道との出会いやお教室のこと、そして書家・美術家としての松井さんの活動などについてうかがってみました。

前編「書道との出会いからアトリエ書道まで」に続き、後編です。

松井由香子さんプロフィール:

6歳より書を始め、約18年間「墨華書道研究会」で学ぶ。2010年に『アトリエ書道』を荻窪で開講。現在は、アトリエ・ハコ(西荻窪)、TUMUGU(青山)、東京国際フランス学園(滝野川)等にて指導。フランス留学の後、文学やアート、自然から着想を得て作品を制作。フランスや日本で展示会を行っている。また、ヨーロッパの主要な美術館では「クリオグラフィー」(書と歴史)や「木グラフィー」(木との対話)など、独創的なパフォーマンスを行なっている。

 

 

ハコ:松井さんの書家・美術家としての活動について聞かせていただけますか?

松井:ここ最近はパフォーマンスの機会が増えていて、2018年からは国内外で活動させていただいています。
2020年はパンデミックで、予定していた活動がほとんど出来ませんでしたが、それでも10月にはアンスティチュ・フランセ関西主催の京都でのニュイ・ブランシュというイベントのプレオープニングでパフォーマンスをさせていただきました。

ハコ:今までのパフォーマンスで一番印象に残っているのはどんなことでしょうか?

松井:2019年に「即位の礼」を記念して、フランス、ベルサイユ宮殿で「令和」を揮毫させていただいた事ですね。

ハコ:あの “ベルサイユ宮殿“ …ですよね?

松井:はい。ナポレオンの「戴冠の間」で書かせていただいたのですが、こんな歴史のある場所でと、本当に緊張しました。駐フランス日本大使夫妻を始め、特別招待客の方々の目の前で書かせて頂きました。
しかも普段は音楽家の方と一緒にパーフォーマンスさせていただいているのですが、この時はシーンとしたなかで、シャッター音だけが響いていました。

ハコ:このビジュアルは圧巻ですね。それにしても大きな作品です。

松井:実はもっと大きな和紙を持って行く予定で、梱包もしていたのですが、空港に行く直前にやっぱり不安になり航空会社に電話してみたんです。そうしたら、やはりこのサイズのものは別料金がかかると言われてしまい、金額が結構高かかったので、どうしよう、、となりました。よく使っている会社でしたし優先のカードも持っていましたので、大丈夫かなと思っていましたが甘かったですね。本当に、あと1時間後くらいには出発という時間でした。とりあえず、梱包を外しその大きな和紙を折ることにしたのですが、折ってから丸めたら、ものすごいシワがよってしまい、使えなくなってしまいました(泣)。困り果てた挙句、菊の御紋の透かしが入った手漉き和紙が家にあったことを思い出し、それを二枚繋げて斜めにすれば、二文字入るのではと考え、急遽この和紙を梱包して、無事時間通り空港へ向かいました。本当に一時はどうなることかと思いましたが、結果的には上手くいって満足しています。

ハコ:他にも数々のパフォーマンスをされていますね。

松井:そうですね。歴史家のマチウ・セゲラと、「歴史」と「書道」を融合した、新しいアートパフォーマンスを「クリオグラフィ*」と名付け、東洋ギメ美術館、スーラージュ美術館、トゥールーズ=ロートレック美術館など、欧州の主要な美術館でパフォーマンスをさせていただきました。
(参照URL:http://yukakomatsui.com/ja/perfomances/
* Clio(クリオ): 歴史の女神 と Calligraphie(カリグラフィ): 書道  から作った造語

ハコ:2021年のご予定はいかがですか?

松井:実は2020年から延期になったフランス・リヨンでの大きな展示会が今秋に控えていたのですが、再度延期になってしまいました。それでも夏には、南フランスにあるセット*という街で、アーティスト・イン・レジデンスに招待いただいていますので、何とか現地に行けると良いと思っています。
この街には昨年の夏にも訪れていて、現地の現代美術家リズ・シュヴァリエと「木」をモチーフにそれぞれ制作をし、昨年12月に、京都のアンスティチュ・フランセで、この時の作品を発表することができました。今年も一緒に制作できることを願っています。
*セット/Sète : フランス南部に位置する地中海に面するこの街は、作家ポール・ヴァレリーや、映画監督アニエス・ヴァルダ、現在では画家ピエール・スーラージュが住んでいることでも有名。

セットのアーティスト・イン・レジデンスにて(2020)

セットにあるリズ・シュヴァリエのアトリエにて(2020)

フランスで進行中のプロジェクトとしては、南フランスの出版社と一緒に、書と詩が一緒になった本も制作中です。

国内では、今年は作品制作に力を入れたいと思い、現在、文学をテーマに作品を制作しています。夏までには何らかの形で発表したいですね。

また、講演会や執筆もやってみたいことの一つです。すでに書きたいテーマがいくつかあるので、研究の時間も作っていきたいと思っています。

ハコ:盛り沢山ですね。
最後に質問です。最近は抽象的な作品も書かれていますが、書道とアートについてどう考えていますか?教えてください。

赤と黒の線墨、アクリル絵の具 和紙(アトリエ・パプティエ): 66 × 100 cm フランス 2020

松井:以前から書の世界では、墨で書いた抽象的な作品、いわゆる墨象(ぼくしょう)と呼ばれるものは、calligraphy ()と言えるのかという問題提起がありますが、私自身は読めても読めなくても、書き手が文字を書いているものは「書」、それ以外は「書」と言えないのではないかと思っています。
けれど、だからといって書家は必ず文字を書くべき、とも思っていません。
大事なのは自分の気持ちに向き合うことで、そこから出てきたものがあるときは文字だったり抽象だったりするだけのことです。
書の場合、その文字が読める人にとっては、
どうしても書かれている言葉の意味が固定観念となり、解釈の幅を狭めてしまうことがあります。

例えば、「花」という文字を書いた場合、それを読める人は「花だ」と理解するけれど、抽象的に「花」を表現したら、それを見た人の感じ方は様々で、その人の気持ちやその日のお天気でも変わりますよね。
自分自身でも抽象画の前で感じとることから、
その時の自分の心の状態を理解できる時があります。

サラスク(フランス)にあるアトリエ・パプティエにて制作風景 (2020)

このテーマについて、2014年に実験的なシリーズを作ったことがあります。
例えばこの作品は、書で「風」を表すのに、あえて「風、かぜ」という文字を使わずに、別の文字で表現しました。甲骨文で「薄(ススキ)」という漢字です。

「風」 墨 和紙 パネル 29.7cm x 42 cm 東京 2014

ハコ:タイトルと書かれている文字が違うんですね。

松井:書の作品は、タイトルと漢字が大抵は同じですが、そういう点にあるとき疑問を感じ、別の視点で表現できないかと考え、シリーズで制作しました。そしてこのときに抽象的な作品もいくつか発表しているのですが、見る方が言葉の意味に囚われず、自由に鑑賞できる作品は、「書」とは違う手応えを感じました。

ハコ:  「言葉」は、気持ちよく入ってくることもあれば、
言葉自身がそれを邪魔する時もあるということでしょうか。

そうですね、きっとそういった意味でも、少し言葉が窮屈に感じて、抽象で表現することが近年では多くなっているのかもしれません。

ハコ:ありがとうございました。
あらためて松井さんのアトリエ書道への想い、そして書家・美術家としてのご活動を知ることができて嬉しいです。

松井:こちらこそありがとうございました。

*平日クラスは毎月第三金曜日、4月16日(金)からのスタートです。
ご興味のある方は下記URLから詳細をご参照のうえお問合わせください。
アトリエ書道金曜日クラスについて

書家・美術家松井由香子さんのURL:http://yukakomatsui.com/ja/top/
アトリエ書道URL:https://atelier-shodo.jimdofree.com/

カテゴリー: Workshop

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